3つの標本分布 — χ²・t・F(統計検定2級 6.5)

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第6章 標本分布の解説記事

母分散が未知のときや、分散そのもの・分散の比を扱うとき、正規分布だけでは足りません。そこで使うのが $\chi^2$ 分布・$t$ 分布・$F$ 分布で、どれも標準正規分布から組み立てられた「道具」です。

定義と性質($Z,Z_i$ は独立な $N(0,1)$)
・$\chi^2(k)$:$Z_1^2+\cdots+Z_k^2$。値は0以上、右に歪む。平均 $k$、分散 $2k$。
・$t(k)$:$T=\dfrac{Z}{\sqrt{V/k}}$($V\sim\chi^2(k)$、$Z$ と独立)。0を中心に左右対称、正規分布より裾が重い。$k\to\infty$ で $N(0,1)$。分散は $\frac{k}{k-2}$($k\gt2$)。
・$F(m,n)$:$\dfrac{V_1/m}{V_2/n}$($V_1\sim\chi^2(m),\ V_2\sim\chi^2(n)$ 独立)。値は0以上、右に歪む。
・$F_{1-\alpha}(m,n)=\dfrac{1}{F_\alpha(n,m)}$、$\ t(k)^2\sim F(1,k)$
なぜこの形なのか
$\sigma$ が既知なら $\frac{\bar X-\mu}{\sigma/\sqrt n}$ は $N(0,1)$ ですが、$\sigma$ を $s$ に置き換えると分母も揺れる分だけ裾が重くなります。この「分子は正規、分母は $\chi^2$ の平方根」という構造がそのまま $t$ 分布の定義です。分散を2つ比べるときは $\chi^2$ を自由度で割ったもの同士の比になるので $F$ 分布が現れます。

使い分け

目的統計量分布
母平均($\sigma$ 未知)$\dfrac{\bar X-\mu}{S/\sqrt n}$$t(n-1)$
母分散$\dfrac{(n-1)S^2}{\sigma^2}$$\chi^2(n-1)$
2群の母平均の差(等分散)プールした分散を使う $t$$t(n_1+n_2-2)$
2群の分散の比(等分散性)$S_1^2/S_2^2$$F(n_1-1,\ n_2-1)$
一元配置分散分析($k$ 群・全 $N$ 個)群間平均平方/群内平均平方$F(k-1,\ N-k)$
単回帰の係数推定値/標準誤差$t(n-2)$
適合度・独立性$\sum\frac{(O-E)^2}{E}$$\chi^2$(自由度は問題ごと)

数値例(表の読み方)

・$t_{0.025}(9)=2.262$。正規分布の $1.96$ より大きく、標本が小さいほど区間は広がる。
・$\chi^2_{0.975}(9)=2.700,\ \chi^2_{0.025}(9)=19.023$。左右非対称なので上下の点を別々に引く。
・$F_{0.05}(3,10)=3.71$。下側5%点は $F_{0.95}(3,10)=1/F_{0.05}(10,3)=1/8.79\approx0.114$。
・$t_{0.025}(10)^2=2.228^2\approx4.96=F_{0.05}(1,10)$(両側 $t$ の点の2乗が上側 $F$ の点)。

ひっかけ
・$F$ 表は「分子の自由度(列)」「分母の自由度(行)」を逆にすると値が大きく変わります。
・$t$ 表・$\chi^2$ 表の $\alpha$ は上側確率。両側5%なら $\alpha=0.025$ の列を引く。
・分散分析表の $F$ は分母が群内(残差)。自由度 $N-k$ を $N-1$ と書き間違えない。
・$\chi^2$ 分布と $F$ 分布は負の値をとりません。「左右対称」は $t$ と正規だけ。
得点のコツ
「何を推定・検定したいか → 統計量 → 自由度」を上の表の順に機械的に決めると迷いません。自由度は「データ数 − 推定に使った平均の数」と覚えると、$n-1$、$n_1+n_2-2$、$N-k$、$n-2$ がすべて同じ理屈で出てきます。

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